ジョジョ・ラビット

  ジョジョ・ラビットは2018にプラハで撮影、2019年9月18日にトロント国際映画祭で上映され、日本公開日は2020年1月17日。監督はニュージーランドを代表するタイカ・ワイテイティで、原作はクリスティーン・ルーネンスのCaging Skeis。クリスティーン・ルーネンスは、1964年にアメリカで出生、国籍はアメリカ・ベルギー・ニュージーランドとある。モデルとして活躍した後、1990年にピカルディ(北フランス)に移住し戯曲や脚本を書き始め、2006年に家族とともにニュージーランドに移住した。エルサ役のトーマサイン・マッケンジーニュージーランド人のミレニアム世代で、総じてニュージーランド色が濃いと言える。

 

 舞台は第二次世界大戦中のドイツ。オープニングロールから、ビートルズの抱きしめたい(I want to hold your hand)が流れ、アドルフ・ヒトラーがまるでマッシュルームカットの4人のアイドルと同様に、観衆を熱狂させる。違うのは、ヒトラーの場合はヒトラーユーゲントと呼ばれるドイツの青少年団が皆左腕を突き上げている点だ。主人公のヨハネス・「ジョジョ」・ベッツラ―は、空想の友人ヒトラーの助けを借りて、立派な兵士を目指す。10歳のジョジョにとっては、愛する母とナチスへの傾倒が世界の全てだった。そこに、自宅の屋根裏にユダヤ人少女のエルサが匿われていることを知り、完璧だったはずのジョジョの世界が崩れていくこととなる。

 もし、ヒトラーに熱狂した少年が、ユダヤ人少女に恋をしたら?という問いかけが斬新で面白い。エルサは、年齢は18歳くらいなので、どちらかとうとお姉さんのような感覚だ。男の子なら、誰しも一度は、年上の優しいお姉さんに恋に似た感情を抱くだろう。エルサは生きることを諦めずに、いつか外で踊れる日が来ることを夢見ている。悲劇的な現実のなかでも、ユーモアを忘れずに人生を楽もうと未来に向けて歩こうとする。きっと、それはジョジョもエルサも愛する人から教わったのだと思った。

 史上最も凄惨な戦争は、空想の理想郷を謳う独裁者が現れ、人と人とが憎しみ合い、絶望が待っていた。リルケは、美も恐怖も全てを経験せよ、絶望が最後ではないと語っている。リルケは芸術を愛し、美しい人と恋をしながらも、第一次世界大戦の時に兵役を経験し、恐怖とは、絶望とは何かを知ってる。

 リルケにとって詩とは、絶望から未来に向けて抜け出す魔法の言葉ようなものだったのかもしれない。同じように、エルサのように暗闇に閉じこめられている人にとっても。 小沢健二で例えるなら、美しい詩集は、ポケットのなかで魔法をかけてくれる。

  また、反戦映画なのに、観ることが苦痛と感じるシーンが極力排除されており、純粋にジョジョラビットの世界に没入できるところも素晴らしい。

 最後のデイビッド・ボウイのヒーローズ(Heros)が甘美で切ない余韻となった。